TOP > 短編小説
タイトル:白い脚線美 - Part1 -
出演:アンリ女王様
作:石田智郁

〜プロローグ〜

渋谷の喧騒が一人の女の足取りを軽くする。

アンリ。それが彼女の名前。 彼女は、丸の内の大手企業でOLをしている。
仕事は常に定時の18時で終わる。
アンリにはある程度の金銭を稼ぐツールでしかない、楽な仕事だ。

学歴も美貌も、それなりの金銭も手に入れているアンリは、夜の街を闊歩するのが好きだ。
昼間の喧騒とは、また違った顔を見せる夜の空気が、彼女を楽にする。

ウィンドゥショッピングを楽しみ、BARで軽い食事をする。
それは、彼女の日課の「1つ」。
東京の夜はいつもアンリの味方だ。
煌びやかな夜の街…。
闇を孕んだネオンの光は、人々の欲望の坩堝を上手に飾り付けて漆黒を隠す。

色白なアンリの肌を、様々なネオンの色が染め上げる。
けれど、意思の強い彼女の瞳は何色にも染まらない。 若者が多く、皆、中身の無い話題で適当な相槌で毎日を下らなく過ごす。

漂うだけの夜光虫。誰もが大した目的も無くフラフラと彷徨う。
そんな渋谷に、アンリが通うのには、明確な目的があった。
他の夜光虫達とは、一線を画していた。

そう。最近の渋谷は、彼女の「ターゲット」が蠢く街でもあるのだ…。



〜第1章 ロック・オン〜

渋谷というメジャーな場所とは言えど、メインストリートを外れれば、アングラな匂いを醸し出す。 閑静な住宅街、というのが一番正しいかもしれない。 何も知らない、ただの通行人達には閑静な住宅街である。

無機質に並んだ電話BOXの1つに入ると、アンリは自宅の留守電のチェックをする。 電話BOXの光を頼りに集まる蛾の群れ。 アンリは、蛾の群れに嫌悪の表情をするのではなく、彫刻のように精巧な冷笑を浮かべ受話器を置いた。

特に重要な留守電は無し。 電話BOXのすぐ脇には、小さな公園と公衆トイレがあった。 アンリは何の躊躇いも無く、公衆トイレに向かった。

「ロック・オン…。」

誰にも聞こえぬ声で、アンリは呟き、女子トイレの個室のドアノブに手をかけた。

鍵が掛かっていないだけではなく、少しだけ漏れる光。

ドアが開いているのだ。 躊躇無く、アンリはドアを開けた。

「あっ!…駄目ぇ〜!」

本当に、女性が入っているのならば、鍵を掛け忘れるまでは、稀にあるかもしれない。

けれど、ドアが開いているなんていうおろそかは皆無であろう。 一応、女っぽい声。とは言え、すぐにわかる。

声の主は、アンリよりも20歳程歳が離れていそうな男のものだった。

女性のトイレに堂々と居座れるような男…変態女装男が、ドア側を向いてオナニーをしている。 アンリは笑いそうなお腹を押さえながら、女装男を怒鳴りつけた。

「此処が何処かわかっているわよね?ちょっと出てきなさいよ!!」

安物の紙で出来た仮面を着け、胸をはだけさせ、チョロチョロと生えた胸毛を隠すかのようにブラジャーをしている。

ピチピチのミニスカートは中途半端に膝まで下げられ、女物のパンティーからは、女性には無い卑猥が飛び出していた。 右手で卑猥を握り締めたまま、足元にスカートが絡まったまんまの格好で、女装男は、アンリに引き摺られた。

「いやぁん。止めてっ。警察はいやよ!!」

何とも確信的な女装男。自分から、いきなり土下座した。

これが、渋谷を徘徊するアンリの楽しみ。

勿論、変態が毎回出没するわけではないが、最新の色物雑誌に『今、渋谷がアツイ!!』と掲載されてや否や、 様々な性癖を持った輩が、ぽつりぽつりと姿を現しだしたのだ。

アンリのターゲットは、「マゾヒズムを持った男」であった。

そのために、以前からペットにしているマゾ奴隷に、色物雑誌を手に入れさせていた。 確かに、雑誌に渋谷の文字と、出没地図が掲載されて以来、何人か変態を発見したのだけれど、
マゾヒストは自分善がりの我儘を押し付ける事も多く、アンリの欲望は燻ったままだった。

マゾペットは飼っている。
マゾ奴隷も持っている。

しかし、女装をするマゾヒストは、相互に対しての性的なSMを望む者が多かった。
アンリが欲しいのは、従順で女らしいマゾヒスト。
決して女にはなれない卑屈さを胸に秘めた、歪んだ性癖の持ち主。

「…アンタ、オナニーを見られたいの?女装を見られたいの?」

アンリは、べったりと地べたを這う女装男に問う。女装男は、腕を掴まれたまま、

「りょ、両方です。両方以上です。あ〜ん、おねぇさま!!」

と低い声で甘えて見せた。

「両方以上って何よ?誰がアンタの姉なのよ!!気持ち悪い!!
アンタみたいな公衆に迷惑を掛ける変態を、警察に突き出さないとしたら…。」

アンリは、形の良い唇をチラッと舐めた。 今夜は良い予感がする。 その想いを悟られぬように、自分のペースに持っていこうと思った。

「私についていらっしゃい!!私から、罰を受ける事ね!!気持ち悪いものを見せたのだから。
勿論、出来が悪けりゃ、警察に突き出すか、そこらに捨てるだけだけど。…さぁ、どうするのよ?」

何をするとも告げず、女装男に迫った。
女装男は、惚けた表情で、アンリの力強い瞳を見つめ、

「頑張ります!頑張るから警察は…お願い…」

と媚を売った。 女装男もまた、色物雑誌で渋谷を徘徊しだした輩だった。女装男は、興奮していた。

「よし、わかったわ。とりあえず、ついていらっしゃい。」

アンリは、女装男を引き摺って、自分専用の調教部屋に連れて行く事にした。 女装男は、慌ててパンティーを上げ、胸元を隠しつつ、大きなサイズのピンヒールでドダドタと着いて行った。

恐怖を感じながらも、アンリのスタイルの良さ、瞳の強さや色の白い美しい姿に股間を屹立させながら…。



(第2章へ続く→)